ずきずきと胸が痛む。
傍から見れば、二人はお似合いに見えた。  桜子さんの本当の気持ちは知らない。ただご主人である陸人さんとは会社の関係で政略結婚だったそうだ。

うまくはいっていないと噂はあったけれど、二人で旅行に来る程には仲が良いらしい。 夫婦の事なんて、その二人にしか分からないんだろうけど。

「――くて…」

ゆっくりと、桜子さんが海鳳の胸へと抱き着いていくのが見えた。
その桜子さんの瞳には、じんわりと涙が滲んでいるように見える。

もうこれ以上ここに居れなくて、音を立てないように館内に戻った。

やっぱり海鳳の心の中にはずっと桜子さんがいる。 そんなのはじめから分かり切っていた事なのに、直接目にするとショックは隠し切れない。

それでも桜子さんは結婚をしていたからそれに安心していた。  けれどもしも桜子さんも海鳳の事が好きだったら?

私と海鳳が結婚して、改めて彼の大切さに気が付いたのなら。  二人の仲は邪魔出来ない。
だって私は海鳳がどれだけ彼女を愛しているか、知っているから。