桜子さんの申し出には正直戸惑ってしまった。
今日は私の誕生日で、特別な日。 海鳳が企画してくれたバースデー旅行。

正直誰にも邪魔されず、海鳳と二人きりで過ごしたかった。  それでもここで嫌な顔をしたら、空気を壊してしまうだろう。

しかし陸人さんは桜子さんの腕を引っ張り、彼女をたしなめた。

「桜子、今日は雪穂さんの誕生日だって言ってただろう。 そんな日に邪魔しちゃ悪いよ。
海鳳君だって雪穂さんと二人でゆっくり過ごしたいだろう?」

「あ……そうよね。良く考えたら…。私ったら、ごめんなさい。会えたのが嬉しすぎて、二人の気持ちも考えずに…
そうよね。雪穂さんの誕生日だったら二人で過ごした方がいいものね」

悪く言えば空気が読めないタイプなのかもしれない。良く言えば、見た目よりもずっと無邪気。
そういう絶妙なバランスが桜子さんの魅力だったりするのかもしれない。

彼女が私に向ける笑顔に、悪意は全くない。 寧ろ彼女に悪意があるのは私の方だ。 だからどこまでも器の小さな自分に落ち込んでしまう。