「いや、俺は何も見なかった」
ジェイソンは後ろめたさを感じ、ジョンの視線を避けながら見て見ぬ振りをした。

ジョンはその返事を聞くと少し満足げになった。 そして頭が痛むのを我慢しながら、何もなかったかのように真面目な顔をして服のシワを伸ばした。

どんな犠牲を払ってでも、面子を失うことにだけは耐えられないのだ。

けれども、ニーナに対する怒りはすでに限界に達しており、 そのうち機会を見つけてツケを払わせると決心していた。

ニーナの美しさは見逃せないが、彼女のやらかしたことは許し難い。

しかし、二人は色々な意味で実はそっくりなのだった。

「病院にいった方がいいんじゃないか? 俺が連れて行ってやるぞ?」
ジェイソンが提案する。

ジョンと義理の兄弟である以上、彼の世話をする義務と責任があるように感じていたのだ。しかも、彼に万一のことがあったら、ジェイソンも家でのどかに過ごすわけにはいかなくなってしまうに違いない。

そのときジョンが顔を上げ、険悪な表情で睨みつけてきたので、ジェイソンはすぐに口をつぐんだ。
ジョンが何事もなかった振りをするつもりだというなら、それもいいだろう。それなら、病院に行く必要はないわけだ。

「大げさなやつだ」
ジョンは冷たく見下すように鼻を鳴らし、手を伸ばして頭をさすった。 明らかに痛そうなのだが。けれども、ジョンは面子を守るため黙って我慢するしかなかった。鬱憤をため込んだ彼の胸には鋭い痛みが走る。

そして、怒り任せに「ジェームズにいますぐ来るように言え」と激しく叫んだ。

「わかった、俺が電話する」
ジェイソンは自分の携帯電話を手に取ってジェームズに電話をかけた。
「ジェームズ、ジョンがすぐホテルに来いと言っているぞ。いますぐだ」