ニーナとジョンは同時にそう言うと同時にヘンリーを見つめ、彼の返事を待った。 ここは何かうまいこと言い訳しないと、面倒なことになってしまうだろう。

見えていないとは言え、ヘンリーは背中に突き刺さるような視線を感じていて、 彼の身体は緊張ですっかりカチカチになっていた。

ルーさん、あなたはご自分の旦那さんが誰かすらご存知ないじゃありませんか。 そうでなければ、あんなことは仰らないはずです。

ああ!

なんでこうも上手くかないんでしょうか、あのお二人は?ヘンリーはそう考えていた。

「ルーさん、旦那さんのお名前を教えて頂けませんか?」 ヘンリーが尋ねる。彼の知る限りニーナはサムにあったことがあるだけで、夫の名前は言うまでもなく、サムの苗字だって知らないのだ。

ニーナはしばらく呆然としていたが、落ち着きを取り戻すと 「なんでそんなこと、あなたに言わなくちゃいけないの?」と答えた。

すると、ヘンリーは微笑んで「ルーさん、旦那さんと何か問題でもおありなんですか?」と言う。

何か問題ですって? 夫にあったこともないのよ。

「どうしてそう思うの?」 ニーナは妙な気がした。彼女はヘンリーに二回しか会ったことがないのに、どう言うわけかあれこれ知っているようなのだ。

車はどんどん走っていく。 ヘンリーはだいぶ楽な気分になり、バックミラー越しにニーナに目をやると笑顔で言った。

「結婚指輪をされていないようですが」

ニーナの指には指輪どころか、指輪の跡すら見当たらない。

ニーナは右手で薬指に触れたが、 彼は正しかった。もちろん指輪なんてしていないのだ。