事の成り行きが明るみに出ると、ジョンは不意に深く考え込み始めた。

実は、ニーナはイザベラの用意周到な罠に嵌められていたのだ。

ジョンが衝動的にチャン家にビデオを渡した後、彼らがニーナを煩わせるために人を送ったことは間違いない。 だから、ホテルに仕返しをしに来て殴ったのだろう。

(俺のこときっと毛嫌いしているはずだ)

「俺はどうしたらいいんだ?」
ジョンは途方に暮れて自問する。そして楽な体勢に座り直し、どうやって自分の失敗を取り返すかについて考え込んだ。

ヘンリーがドアをノックしてそっと入ってきたが、ジョンは考え事に夢中で気がつかなかった。

「シー 社長?」
ヘンリーはすでに大声で話していたが、ジョンはまだ気が付かないようだ。

ジョンは危なっかしいほど憂鬱そうだったが、ヘンリーは彼の心配事がビジネスによるものではないとちゃんと看破していた。

会社のことならば、ジョンが自信を持って簡単に解決できないような問題は存在しないのだ。 目下、彼に予想外の突拍子もない行動をさせることができる人物は一人しかいない。

それは他ならぬニーナなのだ。

ヘンリーは、ニーナが実は彼の法的に結婚した妻なのだとジョンに告げるべきかどうか、まだ決めかねていた。

しばらく考えに耽ったのちジョンは我に返り、 いつの間にかヘンリーが目の前に立っているのを見て驚いた。しかし、真面目な口調で「おい、もうケリはついたか?」と尋ねた。

「はい。でも、 グレン・チャン氏があなたに会いたがっています」
ヘンリーはジョンの質問に不意を突かれたが、素早く反応してそう答える。

ヘンリーはもうだいぶ前からジョンのアシスタントをしているので、ジョンの思考にいつでもついていけるような気がしていた。