ジョンはイザベラの容貌について何も知らなかったが、両親がいかにも平凡な風采をしているので、彼女がそんなに美人だというような期待は持っていなかった。

知性に関して言えば、その日、自分の目でニーナに簡単にしてやられるところを見てしまったのだから、たかが知れている。つまり、賢くもないわけだ。

ジェームズは見る目がないのか馬鹿なのか。 なんで、彼女のことが忘れられないなんて言ったのだろう?

忘れられない人などというものが居るとしたら、ニーナ以外にあり得ないではないか。

ジョンの目にはニーナこそ世界で一番美しい女性として映っていた。

そして何より、彼女は無礼な仕打ちに手ひどく仕返しする冷酷さも併せ持っているのだ。

この野蛮な世界では、己自身あるいは他人のどちらか一方には残酷にならざるを得ない。 然もなくば、打ちのめされて両足で立っていることすらままならなくなってしまうだろう。

ジョンは、ニーナが最近忙しいのはなぜだろうと考えていた。

「ジョンおじさん、誤解しないでくださいよ!」
ジェームズは、騙されやすいカモだというレッテルを貼られたくなかった。

お昼にはニーナに皮肉っぽく見下され、そして今、一番尊敬している叔父に軽蔑されかけているのだ。 こんな仕打ちはあんまりだ!

ジェームズの声でジョンは現実に引き戻され、 興味深そうに振り返り、細い指で持っているタバコに火をつけた。

「そう? じゃあ本当のこと言ってみろ」

ジェームズは元気を取り戻し、休憩用のソファに腰を下ろすと足を組んだ。 そして驚いたことに、その日の出来事を寸分も違わぬ正確さで語ったのだ。もちろん、自分に不利なことは隠したわけだが。