金曜日、夜八時。

フォーシーズンズ・ガーデンホテルではパーティーが開かれていた。 会場は豪華なだけでなく楽しそうな雰囲気に包まれ、いろいろな人が乾杯しつつおしゃべりに興じていた。

ニーナ・ルーは目を上げて看板を一瞥した。
「これね、きっと」

しかし、彼女は思わず眉をひそめてためらった。 招待なしでこんな場所に入るのは容易ではないからだ。 どうすればいい。 ニーナが迷っていると、目の前に華奢な人影がゆらりと現れた。 ニーナ・ルーのクラスメイト、親友のイザベラ・チャンだ。

「イザベラ」ニーナは手を振って挨拶した。
まるで驚かせたかのようにイザベラ・チャンは振り返り、それがニーナだとわかると目をぱちくりさせた。
「何でこんな所にいるの?」

彼女はニーナに歩み寄ったが、以前プレゼントしたフェロモン香水の匂いがしなかったので眉をひそめた。
「どうして香水をつけて来なかったの?」

「大至急やらなきゃいけないことがあって、 香水なんかつけている場合じゃないの」
実を言うと、ニーナ・ルーは普段から香水をつける習慣がなかった。 彼女は人混みをじっと見つめた。
「ねえ、中に連れて行ってくれない?」

「もちろん」
イザベラは無邪気に微笑んだが、彼女の目はいたずらっぽく輝いていた。

そしてポケットから香水を取り出すと、ニーナに吹きかけ始めた。

ニーナはわざと鼻をつまんで咳払いをすると、 「私、香水アレルギーなの」と手で扇ぎながら言い訳した。

イザベラはニーナを、有無を言わせずホテルに引っ張ってエレベーターに押し込んだ。

ニーナの姿が見えなくなるや、イザベラの唇は意地悪く微笑む。

今日は運よく、彼女もフェロモン香水を持って来ていたのだ。 その香水はまさにお誂え向きの発明だった。 どんなにうぶで無垢な女性だってその香水をつけると挑発的になるし、 どんなに禁欲的な男だってその香りを嗅ぐと豹変してしまう。

その日のパーティーには何百人もの男がいた。 イザベラ・チャンはふんっと笑い、 「頑張って、ニーナ。 あんまり不細工な男に引っかからないといいわね」

最高級のVIPルームが2つあるだけの二十階に到着すると、 ニーナは左の部屋をノックした。すると魅力的な男性が、あだっぽい女性を腕に抱えてドアを開けた。

ニーナはつんのめって、眉をひそめた。

どうやらドアを間違えたのだ。

決まり悪そうに目を逸らすと、 「ごめんなさい、 どうぞ、お続けになって」

彼女はくるりと背を向けたが、男が呼び止めた。
「ちょっと待てよ、 ジョンを探しに来たんだろ?」

男はニーナをじろじろ見つめた。 彼女は見たところ純粋無垢そうだ。 ジョン・シーはかつて何度も女たちを捨ててきたが、今回ばかりは違うかもしれない。

ジェームズ・シーはついさっき電話でジョンにサプライズがあると伝えたばかりだったが、 まさか、そんなすぐに女性が届けられるとは思っていなかった。

「ジョンは中だよ」 ニーナがどういうことか理解する前に、男は彼女を部屋に押し込んでドアを閉めた。

彼女はスイートルームにつんのめると、ほとんど床に倒れ込んだ。 背後でドアがぴしゃりと閉じられるとニーナは不機嫌な眼差しで部屋を見回した。