(わがままなんて言ってられない)


昨日の撮影だってそう。若い子達のなかでも必死で食らい付いた。現場では嫌な顔ひとつせず自分の担当の服を如何に可愛く魅せるかに徹した。例え誌面の隅っこにしか載らないとわかっていても。


「オッケー!一回チェック入れようか」
「はぁ~い」


ディレクターの声にすかさず堀ちゃんが飛んでくる。その後ろには下がり眉がトレードマークのマネージャーの姿もちらりと見えた。


「後ろちょっと直しますねー」
「うん、お願い」
「亜未夏さん、スマホ鳴ってましたよ」
「え、ほんと?」
「はい。確認、どうぞ」


そう言って渡されたスマートフォンには数件の通知。

そのなかで、ひとつ。登録したばかりの見慣れない名前。でも、ここ数時間で何度もなんども呼んだ名前。