お母さんは隣に立っている莉音を指した。
「…どういう、こと」
「坂口さんは私のために月果をここに住まわせてくれたの」
その事実は、私の頭をガンと殴った。
「…っ、じゃあ…」
お母さんさえも私の見方をしてくれないの?莉音に愛されていないことはまだ飲み込めたほうだ。けれど、お母さんがこれに加担しているなんて…、まるで心の一部を失ったような気持ちだった。
そう思うと、一気に寒気がした。いつからこのことを仕組んでいたの?まさか私を家から追い出したのも、計画の一部なの?莉音は私だと分かって家出少女を拾ったの…?
「もうやめて」
これ以上失望したくない。私が大切にしていることを、これ以上壊されたくなかった。
「お願い、もうやめて…」
「そんなこと言われなくても、もうとっくにやめてるよ。秋穂さんももうこれ以上言うことはないだろうし、俺も別にそれについては触れない」
「そう。もう言いたいことは言い終わったから、私は帰りますから」
「待って…!」
今を逃したら、きっともう一生話せない。
「お願いだから、私の話を…」
「聞くつもりはない。もう十分話したでしょ、私だってあの言葉でものすごく傷ついた」
「…っ、お母さんはなんで自分のことしか考えないの?私のことを考えずに、いつも…」
「そうやって!」
今までに聞いたことのない悲鳴のような声に、私の舌は動かなくなる。
「私だってそれくらいわかってる。でもお父さんに失望されたくなかったの。産みたくなかった子供を産んだせいで、私を置いて海外出張に行ってしまって…私は幼い月果と毎晩寂しい夜を過ごしていた」