しばらくして、違和感がして目が覚めた。

首は自由に動かすことができたので見てみると、私は十字架に吊るされていた。

とは言ってもイエス・キリストとは違って全裸でもないし、手に穴を開けられたりもしていない。ちゃんと洋服もそのままだし身体の痛みも何も感じないことから、ただ十字架にロープで縛り付けられているだけらしいと分かった。

「あ、起きた」

声がした方を見ると、そこには莉音がいた。さっきと全く変わらなくて、一瞬私が眠ってしまっただけかの如く、彼はそこに立っていた。

「マイスリー使ってみたけど、こんな早く目が覚めちゃうもんなんだね」

マイスリーとは何のことか。まさか麻薬の種類なのだろうか。首を傾げていると、莉音がくすりと笑う。

「睡眠薬。ココアにちょっと混ぜたって言ったじゃん?麻薬とかじゃなくてよかったね、それで突き出せば一発で少年院行きだよ」

ああ、あのココアも計画のうちだったんだと悟るのに、ここまで時間がかかるとは。

私は莉音のことを信用しすぎていた。莉音が好きだと言ってくれたあの言葉を本物だと信じて疑わなかった。

私が莉音のことを好きなように、莉音も私のことが好きなんだと思っていた。だけど実際は莉音の心の中には今でも大切な人が生きていて、そして私はその人のことを気にすべきだった。

それは莉音に言われたからではなく、シンプルに自分でそう思っただけ。

もう先程の言葉すらも信用できない。もしかしたら麻薬を服用されたのかもしれない、そう思うとぞくりとした。

私を見て、莉音はこう言った。

「月果、お母さんが来てる」

な…に、それ。

「…」

なぜここにお母さんが来ているの…?ってか、莉音がお母さんが私のことを大切に思っていなかったということがわかっててその上でこれを見せるってどういう神経なの…?