「愛樹は、ある時お前を助けたんだ」

「…愛樹ちゃんが」

「でも、そのせいで愛樹が代わりにいじめられるようになった」

その言葉に、私は息を呑んだ。

「愛樹に対してのいじめの方がずっと酷かった。愛樹はお前がやられたようなことに加えて、犯されたりだってしてた。まだ小学5年生だっていうのに…」

莉音の目から、透き通るような涙が零れ落ちた。でも私にはそれを拭う資格なんてない、それだけは分かっていた。

涙を拭うこともせずに、莉音は話を続ける。

「それから愛樹は学校に行くことを嫌がるようになった。当たり前だよな。ちゃんと途中までは学校に行っていたけど、とあるきっかけで愛樹は学校に行くことを拒否しだした」

そのきっかけ、とは…、

「…愛樹の妊娠が分かった」

私は目を見開いた。愛樹ちゃんが、妊娠…。

「きっとそれは犯された男との子供なんだろう。愛樹の部屋を整理した時に、妊娠検査薬が出てきた」

「俺がすべての真実を知ったのはもう手遅れの頃だった。どうしかしようとするには遅すぎた。もう愛樹が自殺して、なにも無くなったときだった」

そこで、恐ろしいほど長い沈黙が続いた。まだ首元にはナイフがあるから、下手に動くことはできない。でも今知った事実は衝撃的なものだった。

愛樹ちゃんは私にとって、クラスメイトの一部としてしか記憶がなかった。

でも実際は大きく違った。友達でもない、なんならほぼ話したことのない私へのいじめを止めるよう、みんなに言ってくれた。

いじめを見て見ぬふりするんじゃなくて、彼女だけが行動に移してくれていた。

そして彼女がその代償として私よりさらに酷いいじめを受けていることなんて、知りもしなかった…。

しばらくして話し出した莉音の声は、ぞっとするほど冷たかった。