莉音はそう言うと、私の腹に一発蹴りを入れた。
「ごほっ…」
こんなの、女子に対する力じゃない。痛くて苦しくて、今日食べたものを全部吐き出してしまいそうだった。胃液がせりあがってくるが、私は口を開くまいと必死に唇を真一文字にした。そうしていると少しはましになったが、でも腹の痛みはまだ続いているようだ。
「こんなのまだまだ甘い方だからな?一発で気を失わせることだってできるけど、それじゃ意味がないからな」
莉音が、怖い。
ガクガク震え出した私を見て、彼の口角が上がる。
「妹も、ずっとお前みたいに震えてた。でも、俺に助けを求めようとしなかった。
誰にも打ち明けようとせずにぜんぶあの小さな心に仕舞い込んで、この世から飛び立ってしまった」
「妹…」
どういう、こと?
私はきっと莉音の妹に会ったことなんてない。だって、愛樹ちゃんなんて女の子、私の知り合いに…、
「嘘つけ。愛樹はお前のクラスメイトだっただろ」
朧げな記憶を手繰り寄せてみると、私が小学5年生の頃に、確かに愛樹ちゃんという女の子は存在していた、ということは思い出した。でも…、
「名字は…」
と私は言いかけた。愛樹ちゃんの名字は、坂口ではなかった。でもそれは考えれば分かることだった。
「俺の家は父子家庭だ。愛樹は母さん、俺は父さんに引き取られたから名字が違う」
そう言った莉音の声は、驚くほど落ち着いていた。
「愛樹は、お前のせいで死んだんだよ」
「なんで…」
愛樹ちゃんは小学4年生くらいに引っ越してきて、また5年生が終わると引っ越していった女の子。そんな印象しかなかった。
私が彼女と仲良くしていたという記憶もなければ、そもそも話した記憶さえない。ある印象といえば美人な女の子、くらい。
「それも分からないのか」