「…そ、れは」
言い返そうとして、やめた。私は莉音のことを思いのほか知らない。
この前だってつかれた嘘を見破ることができなかったし、私は莉音の名前と私に向ける性格くらいしかわからない。
だから私は、莉音にはどういう友達がいるのか、そもそもどこに通っているのか、そしてどんな人生を歩んできたかなんて全く知らない。切り取った一部分しか、私には知っている部分がない。
「とりあえず一旦出て行って貰ってもいいかな。金ならあるから」
なんで急にそうなるわけ…?
「でも…っ、」
「はい。二回目はないよ」
なんで…?今までの女より、凛咲ちゃんへの態度がまるで違う。凛咲ちゃんは確かにかわいい。
でも、いくらかわいかったとしても私の彼氏を奪い取っていいわけじゃない。
莉音だって、二股していいわけじゃない。
「莉音…っ」
「何」
鬱陶しそうに、莉音が尋ねる。
「私を…捨てるの?」
今更捨てられるなんて、考えたくもない。
「知らね」
彼の口から吐き出されたのは、一番言われたくなかった言葉だった。
「だから出てけって言ったじゃん。あー金なかったか、百万あれば十分だよね」
莉音は財布を取り出すと、一万円札を大量に私に突きつけた。
「こんなの、いらない」
私は彼の手を払う。そのときにぱさ、とお金が落ちた。
「私が欲しいのは、お金じゃない」
「…もう一度言ってみろよ」
「私が必要としているのは、お金じゃなくて、愛なの」
わざと濁していた部分まで口にした。なのに、彼の表情は変わらなかった。