『何故か』だなんて気にもしなった。

「坂口莉音は月果を傷つけようとしてるんだよ。あいつが女の子を側においたなんて考えられない。どうせ、弄んで捨てるだけだ」

「そんなことあるわけない。確かに莉音は遊び人だって聞いた。今まで数え切れないくらいの女の子と一夜を共にしたことも聞いた。でも…言ってくれたから」

『月果のことが大好きだよ』

『他の誰かに何か言われるかもしれないけど、俺が月果のことを大事にしたいって思っていることには変わらないから』

あの言葉は、行き場のない私の心を救ってくれた。その時、私の心はその言葉に酔いしれた。

「…そ。俺は月果のために言ったことだったのに、届かなかったみたいだね」

彼は私から初めて目線を逸らした。

「…」

気まずい沈黙が纏わりつく。けれどそれをあっさりと破ったのは、私では無く彼の方だった。

「ま、気が変わったら連絡してよ。待ってるから」

彼は事前に用意していたのか、電話番号とメアドが書かれた紙を手渡してきた。

そのメモを見て随分古典的な方法だな、なんて思う。それを見る私の目線はたぶん冷酷だっただろうとわかるくらいだった。

彼はきっと、あの有名なメッセージアプリでは交換してもらえないだろうとでも思ったのだろう。

確かにそうかもしれない。

何故かって?

だってきっと彼は私の気持ちを否定するから。この淡い気持ちを否定されるなんて考えたら、もう何も行動できない。

いくら彼が親身になって私の話を聞いてくれたとしても、私のためになるとは限らない。

第一、彼は私のことが好きらしい。そんな男と連絡を取っているなんて気づかれたら、私も莉音も嫌な思いをする。だから…。

そう思っていたはずなのに、私は後日彼に連絡することになる。