莉音はすぐ横に突き刺さっているナイフをガッと勢いよく抜いた。こんなにスレスレで避けられたんだ。…運が良かった。

「ごっ…ご、ごめんなさい…っ、」

「月果」

そんな凛咲ちゃんを無視して、莉音が話し始める。

「何も言わずに隠れてろなんて言ってごめん」

「いや…」

正直そんなことで謝られるなんて申し訳なかった。莉音にじゃなくて、凛咲ちゃんに。

私はそれにはっきりとは答えず、ぼろぼろになっている凛咲ちゃんの方に目を向けた。なぜなら、本当は莉音の言葉にも答えたかったけれど、ここでどうしても言っておかなければいけないことだと思ったから。

「凛咲ちゃん…何も言わずに、こっそり見てごめん」

卑怯な真似をして、ごめん。

そう言うと、凛咲ちゃんは鼻を啜ってから私を睨む。

「そこで謝るなんて…ずるいよ、月果ちゃん」

「…ごめん」

「もうやめてよ。ばいばい」

凛咲ちゃんは乱暴にごしごしと涙を拭うと、莉音からナイフを奪い去ったあと私達の元から逃げるように去って行った。

「…俺のほうも、ごめん」

凛咲ちゃんが見えなくなったあと、ぽつりと莉音が呟いた。

「それは思った。事前に知らせてほしかったかな」

「うん。次から気をつけるから、ちゅーしてい?」

「うん、…ってえ!?だめ!」

しまった、危うく流されるところだった。