正直こんな展開になるのであれば、私はここにいなかった方がよかったのではと思った。本当は凛咲ちゃんにこんな思いをさせたくなかった。だって私だって同じことをされたら凛咲ちゃんみたいに顔を歪ませてしまうだろうから。

でも、それでも譲れなかった。

これだけは譲りたくなかった。

「月果…ちゃん」

絞り出すように私の名を呼んだ凛咲ちゃん。

「月果ちゃんは、莉音さんに呼ばれてここに来たの?それとも、自分から来たの…?」

「月果は、俺が呼んだ」

私が答える前に、莉音がこう言った。

「…っ」

凛咲ちゃんの目から、遂にぼろぼろと涙が溢れだした。

「今日こそは会ってくれると思ってたのに…今日が一番いい日になると思ってたのに…」

嗚咽と共に、そんな声が聞こえた。

「なんで私だけ…っ!」

「月果伏せろ!」

莉音の言葉と共に、彼が私をぎゅっと押さえつける。

「痛…っ」

莉音が顔を腕で覆ってくれたおかげか、なんとか顔は怪我せずに済んだ。でもいきなり倒れ込んだので痛いものは痛い。

「よかった…当たらなかったな」

「何が…」

「あいつ」

莉音は凛咲ちゃんを顎でしゃくった。

「あいつ、お前にナイフ投げてた」

「…っ」

私は目を見開いた。凛咲ちゃんの方に目を向けると、彼女はがたがたと震え始める。震えたいのは私の方なのに。泣きたいのはこっちの方なのに。

「莉音は…、怪我しなかった?」

「あー、まあ。ギリギリセーフってとこ?」