私が聖女と名乗って怪しまれるのは常日頃のこと過ぎて、この怪しまれるのも慣れてしまっている自分が怖い。
ここはもうちょっと危機感持たなきゃダメよね……あはは。
なんて考えていると、何か目で会話をしたであろう門番は今度は二人共、私に向かって槍を向けてきた。
「見慣れない奴だな。その子供を庇うなど――お前さては闇蜘蛛の魔女か?」
闇蜘蛛の魔女……その単語には聞き覚えなんかあるわけなく、私はただ眉間にしわを寄せて首を傾げることしかできない。
「私は、アンゼリオ国から来た旅人ですが……?」
「その証拠は」
欠けたクリスタルを指し示して、どうも聖女様ですよ〜!!なんて言ったらどんな反応をすることやら。
刃物を向けられてる時点でそんな馬鹿なことはする気はないけど、証拠というものは生憎今は持ち合わせていない。
そもそも旅人である証拠なんて、商業ギルドに入ってる人とかしか、バッチとか身分を証明するものを身につけてないはずじゃ……?
「今は荷物を宿屋に置いてある状態で、手荷物がないもので証明することは出来ません」
クリスタルは持ってるけれど、それを示す訳にもいかない私は、咄嗟にこの場を上手く切り抜けるための“逃げ”を選択する。
「信用できん。領主様の屋敷に来たのも何かの企みであろう」
この広い屋敷は領主宅でございましたか、なるほど。
よくよく見れば門の奥に続く屋敷内の道には、ルリナさんが乗っていたあの馬車が停車していた。
「領主様のご令嬢様と、私の連れが面識のある方です。その方を連れてくれば、証明になりますでしょうか」
ルリナさんにこれでもかって程、ジルとの関係を見せつけられたのだ。
ここにジルを連れてくることはかなり嫌がりそうな気がする、いや絶対に嫌だと言われる。
面倒事を作りたくて作っているわけではない、それだけはジルに分かってもらいたい所だ。
ただこの現状を変えるためには、ジルの力が必要になっている。