自分が笑われていると気づいたジルは私を小さく睨みつけながら、前髪をくしゃりと掻き乱した。
「なんだよ」
「いや。女には苦労しなさそうな人なのに、大変そうだなあって。よっぽど嫌いなのね、あの子の事」
「ああ、嫌いだ。それに――腕にあんたの温もりが残ってたのに、あいつのせいで全部消された」
「……え?」
意味のわからない言葉がどこかへ飛んでいってしまい、全てを拾い切れなかった。
今なんて言った?何を消されたって言ったの?
聞き返す勇気も出なくて、その場で固まっているとフェイムが面白おかしくなっているのか満更でもない笑顔を私に向けてきた。
「なんかいつの間にかリゼさん、ジルのお気に入りになってるね」
「フェ、フェイ、ム?」
「僕もあの子苦手なんだ。嫌な感情で終わるかなって思ってたけど、なんか面白いの見れて少し気が紛れたよ。ありがとう」
それは一体、何に対してのありがとうなの?!
言いたい言葉を口にしようとしても、口からは空気しか出てこなくて私はただパクパクと開けることしかでしなかった。
置いてくぞってジルに言われて、思考停止した頭を置き去りにしながら体だけを動かしてフラフラと街へと歩みを進めた。