王子の横で私にだけ見えるように目を細める彼女は、典型的な悪知恵が働いた女の顔をしている。
なんか二人のいい感じの空気感生まれてきちゃってるし、今度こそ私お邪魔なんじゃないでしょうかね。
「でも、あんなに怖い目にあったんだろ?」
「いいんです。クリフ様。私、気にしてませんから」
軽やかな鈴の髪飾りを付けた彼女が、わざとらしく首を横に振った。
どうでもいいんだけどメリダさん、貴方の描いたシナリオの私は、一体どんなことをしたのかだけ知りたいのだけれど。
そんなことを口に挟むことは出来ないまま、クリフ王子がしっかりとメリダを抱き寄せながらこう断言した。
「その聖女という役職も、いつかお前から剥ぎ取ってやるから覚悟しておけ。そしてこの国から追放してやるからな。俺の大切な人を傷つけた恨み、忘れるでないぞ!」
クリフ王子のその声が謁見の間全体に響き渡り、私は小さく承知しました、とだけ呟いて二人に背を向けるように、すぐさまこの場から立ち去った。
この時は正直クリフ王子の言葉の重みは、それ程まで受け止めていなかった。
恋に溺れた者達の戯言であろうとそんな風に受け止めてしまう程、目の前にいる二人を見ていられなかったのだ。
これから先、面倒なことに足を突っ込むなんてことも知らずに、ようやく解放されたと言わんばかりに大きな伸びをしながら私は王宮を後にした。