「生きとし生きる者 傾く命の器 注ぐ泉の聖水」
これは確か……肉体が弱体化した時に上手く使いこなせば強化の魔法に繋がるだとか、そんなことを教わったような気がする。
聖女の仕事は癒し専門だっていうのに、魔術を覚えていて損はないからと先代に叩き込まれた知識の一つだ。
「ジル。彼女の言葉には嘘偽りはありません」
「何を根拠にそう言えるんだ」
「魔物であれば今の言葉の後に仲間を呼び集める術、妖精の呼び鈴の術の詠唱を唱えたでしょう。それがリゼさんはしなかった、答えは出ています」
フェイムの顔には警戒の色は混じっておらず、穏やかに私を見つめたかと思えば頭をゆっくりと下げた。
「御無礼をお許しください、聖女よ。こんな場所でお目当てであった貴方に会えるなんて思ってもいなかったんです」
がらりと変わったその態度に胸を撫で下ろそうとしたけれど、フェイムの横にいるジルは納得はまだいってなさそうだ。
「これには色々とあって……」
「理由を述べろ。それ次第で俺はあんたに剣を向けるかどうか最終判断を下す」
「ジル。世界の均衡を保つ聖女様に向かってその態度は改める必要があるよ」
フェイムがジルを戒めるように眉をひそめるが、ジルには聞く耳がないようですっと剣の柄に手を添えた。