しばらく過激な移動が続くと、私の耳にもようやく馬車の走らせる音が聞こえてきた。
揺れる視界の中でなんとか目を凝らして前を見つめれば、シェルアバドの国章が刻まれた馬車が、勢いを緩めることなく走り続けていた。
馬車の速度もそこそこ出ているというのに、トウハさんの周りを包む空気が一瞬変わったと思った時には、用意や覚悟を置いてきぼりにして、今までに無いほどの速度で一瞬にして馬車に追いついた。
舌を噛みそうになるのをなんとか阻止した私は、馬車の屋根の上に降り立ったトウハさんの背中からスルリと降りて、トウハさんの耳元で作戦を伝えた。
その作戦に一体どういう事か理解してなさそうだったけど、この馬車を止めるにはその方法が一番妥当だと判断したようだった。
馬を操縦する盗賊の輩は私達がまさかこんな場所まで追ってきているとは思わず、下品な笑いを零している。
これは好都合、私の必殺技をその目に嫌という程、焼き付けておくといいわ。
一か八かのあの時下した判断が、こうしてまた役に立つ時が来るなんて思ってもいなかったけど!