抱き寄せられていた腕も解放され、手を取られるとそのまま宿へと引かれていく。


「迎えに来てくれてありがとう。外は冷えるから中へ入ろうか」


紳士のようににエスコートされるがまま、私は魂が抜けたまま宿の中へと入るしかない。


自室へと戻る時も会話は何一つとしてない、無言の時間が続く。


ジル……私ねジルに聞いて欲しいことがたくさんあるくらい、今日色々な事があったの。


エルフの男の子を助けて、レルナさんに結界張ってこいって命じられて。


魔窟って呼ばれる洞窟に入って、飛龍と遭遇して、フェイムに助けられて、言われた通り結界張ってきて……。


――宿に帰ってきてあなたに、キスされたの。




ねえ、ジル……聞いて欲しいことがあるの。


私のこのモヤモヤしていた気持ちは、貴方に対する想いなのかもしれない。




自分のベッドに案内されるがまま、ジルは私の顔を見ることもなく、ただおやすみとだけ呟いて扉を閉めたのだった。