一見穏やかな空気がやって来たかと思っていたけれど、フェイムの眉間には薄らとしわが寄っている。


「結界を張り直しにって言われたってことは……もしかしたら洞窟内の魔物達が街の人達に危害を加え始めているって考えるのが妥当な所かな」


「街の情報を一度確かめる必要がありそう?」


「無知な領主の娘様が結界について言うくらいだからね。そう確定しても良いと思う」


無知って……もしかしてフェイムもルリナさんのこと、あまりよく思ってなさそうだ。


まあ言われるのも無理はない程に私利私欲が強い人だから、しょうがないと言えばしょうがない。


「少し落ち着いたらもう一度、一緒に洞窟へ向かおうか」


「でも、結界は一人で張りに行かなきゃ二人に迷惑がかかるから……」


ルノを助けに行く時に道を覚えようなんて言っていたけど、実際再び洞窟に入っても道なんか一つも覚えてはいないけど。


でもやると決めた以上やらなきゃいけないんだから、他の人の手を借りるわけには――。


「ん?僕は純粋に調査に行くだけだよ?リゼさんの結果を張るお仕事なんか知らないよ。別件で洞窟に入るんだけど、それは手を貸したことにはならないよね」


意地悪そうな笑みを浮かべながらフェイムは紅茶を一気に飲み干すと、椅子から立ち上がって一つ伸びをした。


目から鱗が落ちた私を見て嬉しそうに笑い、ルーディさんを呼びに部屋の外へと向かった。


一人残された部屋でカップの中に注がれた紅茶の水面に、どうにかなるわよ。とでも言いたそうな自分が映る。


強引な部分があるジルをサポートするのがフェイムだと思っていたけれど、それはどうやら違ったようだ。


フェイムの意外な一面を見たような気がする私は、ほんの少し胸が高鳴ったような……そんな気がした。