ゆっくりと私の凍った足元に手をかざし、魔法を唱えるその声はあの凛とした印象はどこにもない。


目の前で片膝をついて思考停止した私の瞳を見て、にこやかに笑うその顔に止まっていなかったはずの心臓が動き出したような気がした。


「ジルだと思って少し期待した?ごめんね、僕で」


よしよしと子供を宥めるような手つきで私の頭を撫でるのは、予想外の人物……フェイムだった。


パリンと割れた足元の氷は消えるように弾け、そのままフェイムの魔法によって処置が施される。


声にならない言葉をパクパクと口を動かしながらいると、微かに微笑んだフェイムが手を差し伸ばしてきた。


「立てる?」


「……」


「そのご様子じゃちょっと無理そうかな」


私に抱きかかえられた少年の存在に気づき、代わるようにフェイムが少年を背負うと、もう一度私に手を伸ばし力強く私を引き寄せた。


ようやく立ち上がる事が出来た私は地面の感覚に、自分が生きてこの地に立っていることを自覚させられる。


「怖い思いさせたね。もう大丈夫」


優しく耳元で囁かれてそっと抱きしめられると、自然と目が熱くなってポロポロと涙が溢れた。


フェイムはただ黙って泣きじゃくる私の背を何度も何度も撫でて、傍にいるよと伝えてくれた。


再び静けさが訪れた洞窟内に私の泣き声が無様にも響き、でもそれでいいのだと、たくさん泣いていいんだとフェイムが優しく慰撫するように背中を撫で続けてくれたのだった。