急いでこの場から抜け出す……それが最善だとさっきまでは思っていたけれど、この状況じゃこの子の命を最優先にしなければ帰るまでに最悪の状況なる。
何とか持ちこたえた私の魔力を全て注ぎ込みながら、ぐったりとした少年の胸元に手を当てた。
「我、古の女神より落とされた加護の力受け継ぐ者。汝との間に生まれしクリスタルの輝きを癒しに換えて、この手に宿れ《回復魔法【ヒール】》」
詠唱をして自分の手から、か弱く溢れる光の礫が少年の身体に注がれてはいくものの、魔力の量が少なすぎる。
もう少し……もう少しこの子に魔力を注げれば……。
ふと自分が維持している唯一の魔法の存在に気づき、決断を渋るけれど苦しそうに呻く少年を前に迷いなんか切り捨てた。