一つ不気味な唸り声を上げる風にべっとりと体をなぞられたかと思えば、ゼノが歩くのを止めた。
「ゼノ?」
「しっ……」
静かにと諭され身を隠すようにしゃがみ込むと、私達の目の前を巨大な何かが足音を響かせて通り過ぎていった。
足音が遠ざかっていくのを確認してから、ゼノは再び手を引くように歩き出す。
「今のは?」
「この大森林に住む霧の下僕さ。敵ではないけど、あいつと面と向かって遭遇すると厄介なんだ」
「霧の、下僕……魔物なの?」
「うん。霧のせいでオレもその姿をハッキリ見たことはないけどね。母さんが言うに牛みたいな顔をしてるらしいよ。あの霧のお陰で大抵の人間達は、森の中心には入って来れない魔法の霧なんだ」
人に危害を直接加えるこのなく、ただ大森林を守るために存在する……聞いたこともない魔物に驚きを隠せなかった。