「やります」
「交渉成立ね。いい?くれぐれもジルゲイル様本人に言ったりしないこと。一つでもおかしな行動をして見せたら……分かってるわよね?」
しつこいくらいに聞いてくるルリナさんに返事をする気力すらも奪われて、小さく首を縦に振る。
納得したのか、彼女は視線を私から逸らして踵を返してゆっくりと歩き出す。
「さっさとその忌み子を連れてこの屋敷から離れて下さる?」
まるで私達を虫のように、しっしと追い払う手振りを見せつけてくる。
あれだけ私のことを帰そうとしなかったのは、そっちじゃない。
それにこの子は領主がいるこの場所へと助けを求めに来たというのに、そんな言い方する必要がどこにあるのよ。
解放されたはずなのに突っかかりそうになるのをぐっと堪えて、男の子の手をぎゅっと握って屋敷から離れるように歩き出す。
オドオドとした様子の男の子を安心させるように、一つ笑顔を向けて小さく横目で屋敷から感じる視線を盗み見る。
門番に向かって何かを伝えるルリナさんは楽しそうな笑みを浮かべ、今度こそ屋敷の中へと入っていく。
事が片付いたはずなのに不穏な重たい空気に包まれていく感覚が、私を貪るようにのしかかってきて少しだけ苦しくなるのをぐっと堪えた。
まずはこの手を握りしめてくれる男の子を、こんな最悪な場所から遠ざけたくて無我夢中で歩いた。