「……私、初めてなの。告白するのも、フられるのも。
告白するタイミングとか、そんなの全然わかんないし、
どうやって伝えればいいのかも、わかんない。
だけど…………」
また泣きそうな表情を浮かべていたけれど、唯ちゃんはグッと堪えてた。
「……あーあ、言うつもりなんてなかったのになー。
……でも、もう遅いか。」
緩く微笑んでいるけれど、
私には必死に泣くのを堪えているようにしか見えなくて。
「………我慢、しなくてもいいんだよ」
私は唯ちゃんの顔をのぞきこむようにして、そう呟いた。
「泣きたいときは泣いた方がスッキリする。
まだ言いたい事とか…
聞いてほしい事とか…
そんなの私、全部聞くよ。」
唯ちゃんからしたら、そんなこと迷惑なだけだと思うけど…
また…嫌われちゃうな。
唯ちゃんの反応は、なんとなく想像出来ていた。
………はずだったけど。
「っ…っ………」
その私の想像は、全くの正反対で。
唯ちゃんは、私の前でポロポロと涙を流し始めた。
「えっ、ゆ、唯ちゃん…?」
想像もついていなかったことに、当然驚く私。
「……なによっ…泣いていいって…あんたが言ったんじゃない…」
「ご、ごめん…」
もちろん、言ったけど…
大泣きする唯ちゃんに対して、
オロオロと、どうすればいいのか悩む私。
私って頼りないな…
なんて思ってたとき、
「………藍?」
そう、私を呼ぶ声。
「…唯、どうした」
振り向けば、そこには翔がいて。
翔から見れば、私が唯ちゃんを泣かしているように見えるはず。
ジッ、と感じる視線。
「えっ、ちがっ…!」
否定しようと首を振ったが、翔はゆっくりと私達に近づく。
どうしよう…
でも私が泣かしてしまった事にはかわりないし……
そのとき、
「っ…!」
ポンっ、と。
私の頭を軽く撫でる翔。
その手に、私は顔を上げて。
翔と目が合うと、翔はもう一度私の頭を撫でた。
「唯。なにがあった」
「翔ちゃん…」
唯ちゃんの背中に手をあてて、落ち着かせるようにゆっくり撫でていた。
「……別に。なんでもないもん」
「じゃあなんで泣いてんの」
「………花粉症で目がかゆいの」
「今花粉なんて飛んでねーよ」
その会話を聞いていた私は、クスリと笑う。
「……なに笑ってんのよ」
「あ、いや。…面白いなって」
ふふっ、と笑う私。
それを見ている唯ちゃんは眉根を寄せて、
何かを思いついたかのような怪しい笑みを浮かべた。
「…そういえば、あんた。蓮に告られたんだってね」
その言葉に、私と翔の動きがピタリと同時に止まる。
「……は?」
振り向いた翔の顔がとてつもなく恐ろしかった。
「なんで俺に言わないの」
「ご、ごめん…」
帰り道。
黒いオーラを醸し出している翔の隣で、小さくなる私。
唯ちゃんはまだ用事があるからって学校に残るみたい。
久々だな…
翔と二人で帰るの。
でもなんだかちょっと気まずい。
「……………」
蓮くんの事、
言おうとしたけど、言う暇がなかったから…
なんて言っても言い訳にしか聞こえないよね。
「………蓮に、気がある?」
「えっ!?そんなわけ…」
”そんなわけない”
もちろん。
そう言おうとした。
……だけど。
「……翔、妬いてる?」
私には、そうみえた。
「………………」
私の言葉に反応したのか、
ピタリ、と。
翔は足を止めて、
「わっ…!」
な、なに…!
突然私の片方の腕を引っ張り、
ぐっ、と距離が縮まった。
顔と顔の近さに私は赤面し、
口をパクパクと開いたり閉じたり、繰り返す。
抱き締められては、いない。
ただ引っ張られて、顔と顔の距離が近くなっただけで。
掴まれている部分がちょっと痛い。
「翔?」
何も喋らない翔に、
そう呼びかけたとき。
「っ…、…妬いてない」
とても小さな声だった。
でもかすかに聞こえたそれに、
私の期待はゆっくりと消えていく。
違ったか…。
まあでもそうだよね。
翔は妬かないから。
元の体勢に戻れば、私達は無言でまた歩き出す。
翔、はじめ何か言いたげだった…?
そう勘付いた私は、不思議そうに翔を見上げた。
まっすぐ前を見たままの翔は、私を見ることなく歩いている。
私と翔の間には、1人分の距離が出来ていて、
それがちょっとさみしかった。
それからといい、翔に会うことが少なくなった。
学校でもあまり会うこともないし、会ったとしても会話なし。
「別れたの?」そう友達から聞かれる始末。
なんだか避けられてる?
やっぱり、怒ってる?
でも、言わなかっただけで翔が怒るわけないし…
突然のそっけなさに、脳内がモヤモヤする。
「翔となんかあった?」
バイト終わりに、蓮くんはそう私に尋ねた。
今日はお互い終わる時間が一緒で、たまたま一緒に帰ることになり、
久々に二人で会話する。
告白されたときはちょっと気まずかったけど、今はなんとか普段通りだ。
「うん…、なんかそっけなくなったというか…。」
なんだろう。なんか説明しずらい状況なんだよね…
「ふーん。翔、とくに普段通りだけどね」
「そっか…」
私の前だけなのかな?
なんだか本当にそっけなくて。
「まあ、あいつのことだからさ。すぐ元に戻るよ」
「だといいけど…」
蓮くんの言葉を信じて、このまま何もせずに待っとくべき?
でもずっと無視されるのはやっぱ傷つくな…
「なんだかんだ言ってさ、翔もいろいろと悩んでるんじゃない?」
「…悩んでる?」
「そうそう。だから今はそっとしといたら?」
「まあ、俺が言うのもあれだけどさ。」そう言う蓮くんは、ハハっと笑う。
「うーん…」
悩む…か。
何に悩んでいるのか、そこが気になる…
とりあえず、ネガティブな方向には考えるのはやめとこ。
「あ、そうだ。私、今週でバイト辞めるの」
突然言ったそれに、蓮くんはあまり驚かず。
「そういえば、店長そんな事言ってたわ」
どうやら知ってたみたい。
なんだ、じゃあ報告しなくても良かったのかも。なんて思う私。
「もう翔の誕プレも買えたし。使いみちないからね」
「ふーん。じゃあ今日で俺と会うのは最後だ?」
「まあ、そういうことになるね」
最後っていっても、バイトではだけど。
「そっかそっか。最後か…」
そう呟く蓮くんに、私はニコリと笑みを見せる。
「今までありがとう。蓮くんのおかげでいろいろと助かったよ」
突然の私の言葉に、蓮くんはキョトンと目を丸くしていた。
「え、なに急に。そんな改まっちゃって」
今にも大笑いしそうで笑いを堪えてる蓮くん。
「一応最後だし、感謝の気持ちを」
「ふはっ」
「ちょっと、失礼な。爆笑するところあった?」
ハハっ!と笑う蓮くん。
大笑いしてるところ、初めてみた。
涙出るくらい笑ってるし…
「じゃあさ、俺も最後にしたいことあるんだけど」
やっと落ち着いたのか、笑い泣きしていた蓮くんは涙を拭きながらそう言った。
「ん?」
最後にしたいこと?なんだろ。とくに気にはかけなかったが、
次の蓮くんの行動に、私は驚くことになる。
「っ!な、ちょっ…!」
フワリ。蓮くんの甘い香りが鼻をくすぐった。
だ、抱きしめられてる!
翔以外の人にこんな事されるのは初めてで、なんだか身体が強張った。
「そんなに固くならないでよ」
「だだだだだって……!!」
離れろ!離れろ!っと。グイグイ胸元を押すが、やっぱり意味のないこと。
キュウっと抱きしめる力が強くなったかと思えば、私の肩を軽くつかんで、離れた。
「俺、藍ちゃんの事好きだよ」
「っ………」
また言われたそれに、私の頬は赤く染まっているはず。
こういう状況に慣れていなくて、ゆっくりと動いていた心臓が少し速くなる。
「でも今は好意じゃない、友達としてだよ。友達として好きだってこと。」
伸びてきた手が、私の右手を軽く掴む。
そして、フッと笑った。
「………なーんてね。本当はちょっとまだ気にはなってる。
だけど潔く諦めることにした。
これ以上、二人の中に踏み入れそうにないしね」
隙間すらないし。って苦笑いを浮かべる蓮くん。
あまりにも衝撃的な事ばかりで、私は何も喋れずにいた。
「でももし翔と何かあったら言って?
…そのときは、俺が慰めてあげるから」
その言葉と共に、私の頭をポンポンっと軽く叩いて、
「帰ろっか」
ニコリ、蓮くんは今まで通りの笑顔を見せた。