「あんな事……皆に、するの?」




キュッ、と掴んでいる所に力が加わったのを感じた。



はっ?



なに言ってんの、コイツ。



少し困った様子を見せる唯ちゃんに、俺は眉根を寄せる。



ああ。



見てたってことか。




「ふーん?




……ねぇ、唯ちゃん。」




その手を軽く掴んで、



トンッ、と壁に押さえつけた。




「盗み見、したんだ?」




こういう性格の奴って、



何故かイジメたくなる。




「っ!ち、ちがっ……!」




ほら、絶対否定する。



見てたくせに。



素直になれないんだろ?





「なに?


唯ちゃんも、あーゆー事して欲しい?」


「っ!」




あーあ。



顔、真っ赤にしちゃってさ。



フフッ、と俺が笑うと、



唯ちゃんはオドオドした様子を見せる。




「………まあ、悪いけど。


俺、あーゆー事、皆にするわけじゃないんだよねー。


だから、勘違いしないでくれる?」




俺はそんなに女好きじゃねーよ。




「………っえ?


っ…!でも、さっき……っ!」


「うるさい」




俺のその言葉に、



驚いた表情で叫ぶ唯ちゃん。



だけどその口を手で押さえつけた。



ふぐっ……、と苦しそうな声を漏らしている。





「俺の邪魔すんなよ」





唯ちゃんの手首を掴む手にギリッと力が加わった。




「っ……………」




痛そうに顔を歪める唯ちゃん。







「………………」




その様子に

スルリと力を失ったかのように、手を離した。



肩で呼吸をする唯ちゃんに対し、



フイッ、とその場を後にする。





「どういう……意味?」




その場に崩れ落ちる唯ちゃんなんて気づかずに、



俺はスタスタと歩いていく。




「なんなのよ……っ、



近過ぎるし………



やっぱり私、おかしいよ…」




ドキドキと胸が高鳴るそれに、



唯はそれの正体をまだ理解できていなかった。



触れた部分がほんのりと熱くて、



速度が増す心臓を落ち着かせるのに必死だった。





ある日の図書館での出来事。




「……ねぇ、翔。



明後日……何の日か知ってる?」


「………知らね。」




私の話なんて興味なさげに、



黙々と勉強をする翔。



……言うと思った。



なんとなく、そんな返事がくるだろなーって予想はできてた。




「そう……だよね」




ガクリ、と勉強をする気がなくなった私は、




「ごめん、ちょっと本でも探してくる」




ガタッ、と静かに席を立った。



黙々と勉強を続ける翔を眺めながら、遠くにある本棚へと向かう。



明後日は…………



私達が付き合って二年目の日なのに。




「はぁー…………」




やっぱり、忘れてるよね…。



この時期になると、翔がガリ勉モードに入ってしまうから、どうしようもないんだ。



いつもは掛けない眼鏡だって、



この時期になると気づけば掛けてるし。



その姿にいちいちキュンッとしてしまうのは、仕方が無いこと。



今日から三日後にあるテストに向けて、翔は必死みたいだ。




「テストの前日が記念日なんてさ……。



ほんと、ついてない……」






なんて事を思いながらも、



何気に料理本を探してる私。



いっぱいあり過ぎて迷うけれど、



出来たら豪華な物を作りたいんだ。



ケーキでも、もう少し凝った物を作りたい。




「どれが喜ぶかなー……」




翔は甘いのが大好きだし、



とびっきり甘くしないとね。




「………迷う。」




その場にしゃがみ込んで、ペラペラとページをめくる。



なかなか決まらないそれに、



はぁーっと息を吐き出した時。




「藍、なにしてんの」


「うわっ!?」




ひょこり、と私の隣に現れた翔。



私の見ていた本を覗き込むようにして、顔を近づけてくる。




「ダ、ダメッ!!」




だけどそれをパッと隠す私。



サプライズにしようと考えていたんだから、



見られたら台無しになる……!




「………なに?



なんか、作んの?」





けれど。



隠していたつもりのそれは見えていたみたいで、




「しょ、翔に作るんじゃないよっ!」




咄嗟に出た、嘘。



だってバレたら困るから……。




「ち、違う人にあげるものなの!



だから、ちょっと、迷ってて……」




あははっ……、と笑いながらキュッとその料理本を隠す。




「………誰に?」




怪しげに見られている気もするが、




「えっ、と……。と、友達!!」




必死にそう誤魔化した。



危ない、危ない…。



バレるところだった。



ホッと一安心したのと同時に、髪を手でクシャッと触って。



うっ、と罰が悪そうに翔から目線を外すと、




「………ふーん。」




スッ、と私に向かって伸びてきた翔の手。



その手が私の髪の毛を捕らえて、サラッと触る。




「………嘘も大概にしなよ」


「えっ!?」





バ、バレてる?



クイクイと私の髪の毛を軽く引っ張る翔は、



私と目が合うとニヤッと笑みを浮かべた。




「お前が嘘をつく時は、必ず、髪の毛を触る」




その癖直せよっ、



なんて苦笑しながら言う翔に私は目を大きく見開けた。




「そんな事してた?」


「…………………」




コクリ、と頷く翔。



自分自身でも気づかなかった事を、



翔は気づいていたみたいで。




「俺に嘘は通じないよ」




ふっ、と鼻で笑ってきた。



その瞬間に身体中がかあーっと熱くなって、




「っ……翔のバーカ」




べー、と舌を出して反抗する。



せっかくサプライズにしようとしてたのに、



バレたら意味がない。





「怒んなよ」


「怒ってないよ」




プイッ、と顔を背ける。



まるで拗ねた子どものように。




「怒ってんじゃん」


「だから怒ってないって」




正直に言うと怒ってる。



けれどそれは自分自身に対して。



サプライズ、しようとしたのにな……。



ほんと、変な癖。




「そろそろ席に戻ろっか……」




翔、勉強してたもんね。



私、邪魔しちゃったかな……。



そんな罪悪感に浸りながら、



スクッ、とその場から立ち上がろうとしたけれど、




「あっ!」




手に抱きかかえていた、大量の料理本がバサバサと床に落ちてしまった。




「ご、ごめん!」


「………………」




それを一緒に拾い集めてくれる翔。



ほんと、私って、



鈍臭い女………。







せっせっと拾い集める中で、



徐々にお互いの距離が近くなって。



最後の一冊を拾おうとした時に、



翔もそれを拾おうとしたらしく、手がちょんっと触れる。




「あ、ありがとう。助かったよ」


「……………」




一瞬、動揺する自分もいたが、



そう言って。



それを私が拾おうと掴んだ瞬間。




「…………藍。」


「えっ?」




低い声でそう呼ばれ、



グイーッ、と。



私のその手を軽く引いた翔。




「っ…………!」




至近距離だった為、



目の前には翔の顔。



引かれた事によって、何故かチュッと軽く唇が触れた。




「っ…!はっ…!?」




当然、驚く私。


無口な彼の妬かせ方

を読み込んでいます