「あと、」





ダラリと下がっていた私の手を取ると、





「読んでみたいならあげるよ、この本。」





私の手のひらには


さっき春が読んでいた小説が。





「えっ」





戸惑う私に





「読んでみたいって、顔してたから。」





ニコリと微笑む。



その顔は、なんだか嬉しそうに。




(バレていたのか……)




確かに読んでみたいと思っていたし、気になっていた。





本当の事だ、嘘じゃない。



なら強がる必要もないから





「ありがとう……」





ありがたく受け取る事に。







「ここの本読むなら、この部屋も使っていいからね。基本寝る時しか使ってないし。」

「いや、いい。寝る部屋だと言っても春の部屋には変わりないし」

「えー?気にしなくてもいいのに」






「せっかく綺麗に片付けたのになぁ」なんて言ってるけど、そのために掃除したのかよ。





「………触ってもいい?」


「もちろんっ」





念の為許可を貰って、
気になる本を手に取った。



そんな私のそばで





「じゃあ俺はシャワー浴びてくるけど、気にせずに見てていいからね」

「っ、」





だから、耳元で言うなっ…





平然とした顔をするコイツは


故意的なのか
それとも無意識になのか。





パタン、と。

ドアが閉まった音。




自然と出た溜め息と、春がいないこの空間でやっと心を落ち着かせた。