「美味しい朝ごはんも食べた事だし、どっか出掛けよっか!」
「………………」
使った食器を洗っている時、向かい合うようにして前のめりでそんな事を言ってきた。
………近い。
「なんか欲しい物とかない?
あれあれば良いな~、って思う物とかさ?」
「ない」
もはや、そんな物見つける方が難関だ。
本当になんでも揃ってるから、この家。
「んー…お散歩でもする?」
「しない」
濡れた手をタオルで拭いて、
食器を拭き始める。
「じゃあ、どっか行きたい所は?
どこでも連れてってあげるよ」
私の隣にやってくると、めげずにそう声をかけてくる。
めんどくさいなぁ…。
(なんで意味もなくアンタと出かけなきゃいけないんだ)
適当にどっか遠い地名でも言えば「あー、ごめん。そこはちょっと遠すぎるかな~」なんて。
諦めてくれると思って、ここから凄く遠い場所の地名をあげた。
だけど、私の予想は大外れ。
「飛行機予約するからちょっと待ってね」
「まてまてまてまて」
本当に予約しようと携帯を触り始めたから、すぐに止めた。
どうやらコイツに冗談は通用しないらしい。
「なに?行きたいんでしょ?行こうよ」
「冗談だってば…」
「え、そうなの?なーんだ。
凛と旅行できると思ってちょっとワクワクしちゃった」
分かりやすくテンションが下がったコイツを見て
(私の言った事全部信用しそうだな…)
と、謎の信頼を持たれているみたいだ。
いや、ただ騙されやすいだけなのかもしれない。
「ねぇ、ない?どっかさ、行きたい所」
「…………………」
しつこいなっ。
そう思いながらも、地味に脳裏で考える私。
とりあえずどこか言わない限り、今日一日ずっとこのやりとりが続きそうで、疲れる。
「……言ったら、連れてってくれるの?」
観念してそう言えば
「もちろん!!」
と、キラキラと目を輝かせていた。