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『この痕が消えて無くなるまでには帰ってくるよ』





鎖骨に色づく赤い痕。





(……薄くなってる)



その色の変化は


約束の日まで" あと少し "だということを知らせる。





帰ってくる気配は感じないし、連絡だって何一つない。



こうやって無意識に春のことを考え、毎日のように春の帰りを待ってる。



依存しすぎだとは思うけど、

考えたくないのに考えてしまう。


気づけば、仕事終わりにカフェでコーヒーをテイクアウトするくらい。


この飲み物……春の好物っぽいし。



考えれば考えるほど、寂しくて虚しくなって溜め息が出るというのに。





そんな私の心を弄ぶようにか、


仕事の帰り道。信号で立ち止まると、駅前の大きな画面から聞き慣れた声が降ってきた。





「あっ!櫂くんだ~!」





若い女の子の目線の先はもちろんその大画面。



聞き慣れた声といい、私も顔を上げれば




(春…)




その大画面いっぱいに映しだされた春のCMが目に入る。……ううん、この人は春じゃない。一ノ瀬櫂だ。



いつものふわふわとした雰囲気ではなく、クールで色気のあるカメラワークで、とある商品を持った櫂が映ってた。




声といい、姿といい、


目にも耳にも入ってくるその情報が


会いたいなと


私にその欲望を湧かせる。






1人の時間は好きだ。


休みの日は本を読み漁る。
そんな生活が好きだった。




なのに、

今じゃ数日会えていないだけでこのザマ。





こんなの……私らしくないけど



今は春に会いたくてたまらない。





「ただいま」





いつものように誰もいないこの空間に寂しさを感じながら中へと足を踏み入れる。



「おかえり」と返ってくるわけもないけど、私はいつも試すようにそう言うのだ。


もしかしたら、今日こそは「おかえり」と返ってくるかもしれない。その期待を込めて。





「………………」





帰って早々ソファーに座り

ボーっと意味もなくテレビを見つめた。



自然とテレビの電源を入れてしまうと、映し出されたそれはさっき大画面で見たCM。




偶然にしては驚いてしまった。




けど、私は見入ってしまう。




その目に

声に

惹き付けられるようにして画面に近づいた。



手を伸ばせば触れられる距離。



けれど、それは実物ではない。


硬い感触が指先に感じる。




今触れられのは、画面に映るアンタだけ。





「………早く帰ってきてよ。」





この広い家で

1人で生活するには寂しすぎる。