深く沈んだそれがフッと浮上したのは
朝日が薄らと上り始めた頃。


頭をふわふわと撫でられているような、
そんな感覚に気付いては重い瞼を開けた。



寝起きのせいでボヤける視界。




「あ、起こしちゃった?」




聞こえてくる声もなんだか不安定で




「ごめんね」




視界はまだ定まらないけれど、ヘラヘラと笑っているように見えるその顔に反省の色は無さそうで。




「………おかえり」




小さくそう声を発せば




「ただいま!」




その言葉を待ってましたと言わんばかりに笑うんだ、春は。





ソファーに全体重を預けていた私はゆっくりと身体を立て直して座る。


そうすればソファー近くでしゃがんでいた春も私の隣へ腰を下ろした。




「部屋に凛の姿ないし、カバンも床に落ちてたから何かあったのかと思ったよ」

「………………」

「疲れてそのまま寝ちゃったんだね」

「………うん」

「お疲れ様」





私の肩に腕を回しては優しく引き寄せ包み込むように抱きしめられる。


触れられている部分から じわり と身体中に熱が帯びた。



春もきっと今帰ってきたばかりなのだろう。
丸眼鏡……かけたままだし。




一体今まで何処に行っていたのか

聞いたところできっと答えてはくれない。




隠すのは

一般人の私には言えない、芸能関係のこと?



それとも────…




複雑な気持ちを抱える私は、そのぬくもりを深く感じるまでもなく春の胸元を押した。





「……早く寝てきなよ。寝てないんでしょ?」

「こういうの慣れてるから大丈夫」

「………………」





確かに。春からは全くと言っていいほど眠気が伝わってこない。


寧ろどこか瞳が輝いている気がする。

寝てないはずなのに元気だな…





「それよりも、凛に触れてたいんだけど」

「………………」

「ダメ?」





そう言って首を傾げる春。


おねだりをするように、甘えるように。

私の顔を覗き込む彼はへらりと笑う。



その甘えに心は揺らいでしまいそうになるけれど、


私はその瞳から背けるように首を動かした。



口は動かなかった。

だから態度で示した。



触れないでと、そう拒否を示したのだ。




雰囲気に呑まれては最後。


私はその瞳の虜になることを知ってる。