その想いに気がつくと、今になって春が怒っていることに理解できた。
春が私じゃない誰かに触れられていると
私も、きっと、同じ気持ちになる。
実際そうだった。
道端の大画面に映っていたあのシーン。
一ノ瀬櫂と桜田紬のキスシーンを見ただけでも私の心はモヤモヤと霧がかかり、気持ち悪くなった。
キスをするのが嫌になった。
その顔もその目も、見せるのは私にだけじゃない。私じゃない誰かにだって。私じゃない他の誰かが触れているんだって。
そう思えば、嫌だと、身体が拒否を示した。
今の春もきっとそうなんだと思う。
好きな人が知らない誰かに触れられる。
惹かれ合う私たちにとってそれは、醜い出来事に過ぎないということ。
私は、春が由希子さんと過ごす2人っきりの時間でさえにも嫉妬した。
仕事だと分かっていても、ダメだった。
何であろうと関係ない。
私は。
もう、私は───…
ずっと無防備で
だらりと落ちていた腕を春の背中に回し、
ギュッとしがみつくように抱きついた。
ぬくもりがもっと濃くなっていく。
耳にあたる春の髪。
ふわふわと柔らかくて
ぬくもりが心地よくて
「………好き…」
ポツリと漏れるように出たそれは、今までずっと胸の中に秘めていたもの。
言ってしまえば何かが変わってしまうんじゃないかと恐れ、怖くて言えなかった。
躊躇っていた。ずっと。
だけど……もう、いい。
「春のことが…好きっ…」