途端。
ふわり、と
春の香りが優しく鼻をくすぐった。
机の上にこぼれ落ちていた涙は
いつの間にか春の服を濡らしていて
「ごめん。凛、ごめんっ…」
春の焦った声が何度も耳に響いた。
腰に回された腕。
後頭部にある手。
苦しくないと、
嘘でも言えないほどとても強い力。
ぬくもりが、これでもかと、感じてくる。
「……行かないよ。
どこにも行かない、大丈夫。大丈夫だから」
春がどこか遠くに行ってしまうわけじゃないのに。
歩み寄れば辿り着く距離だったとしても────泣くほど離れ難いと感じてしまう。
「っ…、…うっ…」
いつから私は……こんなにも弱くなってしまったんだろう。
ギュウッと強く抱きしめられているのに、
できればもっと、なんて。
「春…っ……」
もっともっと強く抱きしめてほしい。
ぬくもりがひとつになるその時まで
ずっと、抱きしめていて。
私も、ずっと、
あなたに触れたかったから──…