グツグツと音を立て始めたそれ。もうこのキッチンの仕様にも慣れた私は慌てずに火を弱くする。
ピッピッピッと何度かスイッチを押せば、火は弱火へと変わった。
シンっと静まり返るこの空間。
私は目の前の料理を見つめ、俯いた。
ムシャクシャしてイライラして
誰もいないと寂しさを感じ、
ぬくもりが無いと
今日1日が物足りないと思う。
「………もうっ…やだ…」
なんだかこの日常が……とても窮屈に感じる。
と。
「!!」
玄関のドアが開いた音。
弱火にしたため静かなこの空間。
だからこそハッキリとその音が聞こえた。
(帰ってきた…)
自然と漏れた溜め息。
それはこれから始まる"日常"に嫌悪感を感じたから出たもの。
こんな感覚、少し前までは無かったのになと、私は止まっていた手を再び動かした。
今度は近くのドアが開いた音。
その人に向かって何事もないように「おかえりなさい」と声をかけた。
「もう少しでご飯出来ますから」
視線をあててから、気づく。
いつもなら2人の姿がある中、
今日はマスクも帽子も
既に外したらしい春の姿だけで。
「分かった」
私を見る彼の目が
未だに冷たい目をしているということ。