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「春!!」
家に帰ってスグ、
私は大声で名前を呼んだ。
けどハッと我に返っては慌てて口元を手で押える。
由希子さんは……いない、みたい。
その事に気がつくと、ホッと安心した。
というか、春もいないけど。
玄関には誰の靴もなく、
帰ってきた私の靴だけがポツンとある。
………まただ。
また、ムシャクシャ、する。
てことは今、春の隣には由希子さんがいる。
四六時中、そばにいる。
由希子さんは仕事に必要な人。
だからそばにいる。
深い関係なんて一切無いって言ってた。
だから、心配するような事は、何も────
(心配って、なんの、心配なのよ…)
分からない。
もう、私が、分からない。
こんな経験……したことがないんだってば。
またイライラして
けど行き場のないそれをグッと堪え、
2人が帰って来る前にご飯を作る。
どうせ今日も由希子さんはこの家にやって来るだろう。
言いたいことは由希子さんが帰ったあとだ。
その時まで
私はまた、2人が一緒にいる所を眺めるだけ。
何も出来ずにずっと。
ずっと、1人で。