「てゆーか俺!
安藤さんに気はないっすからね!?」
俺彼女いるし!!!と、至近距離で叫ぶように言うコイツ。耳がキーンとなる。
「言われなくても分かってるから……てかアンタ距離感バグってんのよ。毎回近い。」
トンッと慎二くんの身体を押し返す。
今のもそうだし、春に見られた時だってめちゃくちゃ近かった。
「うわ、それ!良く言われるんすよ~!!その度に彼女に怒られたりするし。」
「怒らせてるって分かってるなら見直すなりしたら?」
すると慎二くんは「いや~」とニヤニヤ笑いながら頭を掻いた。
「だからこそっていうか~ 怒るってことは嫉妬するほど俺のことが好きってことじゃないっすか。だから余計に怒らせたくなっちゃうんすよね~」
「……変な性癖ね」
「そっすか?みんなそんなもんっすよ」
そんなわけないだろ。
そんな性癖、アンタくらいだわ。
……なんて言ってやりたいけど
『嫉妬』という言葉には些か違和感を覚えた。
分からなかったことに気付かされたような感覚で。
経験したことがある、気がする。
「あ、じゃあ俺はここで!」
慎二くんはすかさずポケットからタバコを出しては「お疲れ様っす~!!」と、急ぐように行ってしまった。
休憩室でも吸っていたくせにまた吸うらしい。
まあこれが彼のルーティン。
人の日常に他人がとやかく言う権利はないし
仕方が無いと思う、けど。
そうであっても吸いすぎだ。
「………帰ろ。」
私も家路へと足を進める。
家に近づく度に
私の脳裏には春の姿が思い浮かぶ。
今日あった出来事が
一つ一つ忠実に
一歩進む度につれて、蘇る。
その度にまたズッシリと胸辺りが重くなった。
感じる視線
冷たい口調
『誰にでも心を許すんだね』
久々に会話が出来たかと思えば、意味の分からないことを言う。
心を許したなんて一言も言っていないのに。
何も、慎二くんに気があるわけでもないのに。
(なんで……軽蔑されなきゃいけないわけ)
冷静になった途端腹が立ってきた。
どこかふつふつと込み上げてくる。
たかが頬を触られただけで何怒ってんの?
まず私はアンタのものじゃないし、何をしようが私の勝手。
なのに触れられてたからとか何とか言って、私を軽蔑。
なにそれ?自分勝手過ぎでしょ。
家に帰ったら何か一言いってやろうと
私はどこか急ぐように歩みを進めた。
ほんと、春といると、
私はムシャクシャしてばかりで
気持ちを制御することが難しくなる。