イラついている私は
眉根を寄せて春を見上げた。



言葉にしていないのだから
コイツに私の気持ちが伝わっているはずがないけど、





「俺は、凛しか見えてないよ」





彼は私の心を見透かしているような。





「だからさ。

凛も、俺と同じくらいおかしくなってよ」





その綺麗な目を細め、甘美に妖しく微笑み、
すでにおかしくなりつつある私を誘う。





「俺のことばかり考えて、些細なことで嫉妬して、片時も離れたくないって。


そう執着するくらい俺を求めてみなよ。」





サラリと髪をすくわれては、そこにキスを落とす。





「俺以外のことなんて
何も考えられなくしてあげる。

そうなれば、胸に秘めたその気持ちだって、
うんとラクになるよ。」





ツン、と置かれた指先は、胸と胸の間。





「何もかも溶かしてあげるから」





響いた低い声に私は身を固くして。





「早く俺を求めてよ、凛。」





甘く誘われる誘惑に、胸に秘めている想いが溢れそうになる。




春の目を見ると何も考えられなくなって


春のぬくもりが私に力を無くさせ、


今じゃ春の色気に酔って頭が回らない。




まるで、春に洗脳されているかのよう。





「っ……、す…」





『好き』




そう言葉が漏れかけた─────ときだった。






ピンポーン…




部屋に響き渡る音は

誰かがここにやってきた音。





ほんと……絶妙なタイミングすぎて。



私自身はどこか目が覚めたような感覚に陥った。





「誰か来たけど…」

「うん。気にしなくていいよ」





私の意識が玄関へと向いているからか、それを遮るように吐息が触れそうな距離まで顔を近づけ瞳をのぞきこまれる。





「そんなことよりもさ。ほら、続き。」





いや……そう言われても。




配達物とかじゃないの?

だったら尚更出た方がいいでしょ。





「いいから……早く出てあげて。」





春の身体を押し、倒された身体を起き上がらせる。



意外にもすんなりと退いてくれたから、春自身も来客が気になっていたのだろう。





てゆーか、この家のインターホンの呼出音、初めて聞いたかも。