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「え。」





玄関から見える春は目を丸くさせていて





「えっ!?」





なんでいるの!?



そんな顔をする。





「……早上がり」

「本当に!?」

「嘘なんてつかないよ」





目を輝かせてとても嬉しそうにされると

なんだか心があたたかくなっていく。





………だけど。



その心の中でモヤッ…と霧がかかるもの、


さっきの映像だ。





(だからあれは演技だって……)





そう自分自身に言い聞かせているのに、思い出せば出すほどムシャクシャしてしまう。



演技なのだから気持ちは入ってない。





────それは、本当に?




あの映像の一ノ瀬櫂は、今日の朝私にキスをした時と同じ顔だった。



その人のことを求めているような、そんな顔。




けれど役者なのだから表現力は大切なことで。


たった演技中の表情だけでムシャクシャしてしまう私は、やっぱりどこかおかしいのだろうか。





「凛?」





名前を呼ばれてハッとする。





「どうしたの?仕事、疲れた?」





気づけば目の前に春がいて、顔色を伺うようにして覗き込む。





「………ううん、大丈夫。なんでもない…」





自分でも分かるほど
ぎこちない笑顔を見せてしまった。



春もきっと怪訝に思っているだろうけど、私は何事もないかのように隣を素通りする。





仕事を早上がりしてまで会いたいと思っていた人が目の前にいるのに、今はどこか喜べない。





(なんか、ムカつく…)





この気持ちがなんなのか、自分でもわからないんだ。