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仕事中、髪が鬱陶しくて邪魔だった。
品出しをするときとか
髪が顔にかかって見にくいし…
(……今日だけの辛抱だ。)
明日はタートルネックを着よう。
うん、そうしようそうしよう。
その前に、まず、春を一発殴りたい。
休憩中も仕事中も
慎二くんはニヤニヤと気持ち悪い笑みで見てくるし、
「なんで隠すんすか~ セフレさんは周りの人にキスマーク見せて欲しいんすよ!」
「だから違うって言ってるでしょ。うざい。」
何度この会話をしたことか。
隠すなんて当たり前だ。
こんなの、昨日そーゆーことやりました、なんて言いふらしているようなものじゃないか。
見せびらかす意味も分からない。
「はぁ………」
今日もドッと疲れて
家に帰ることになりそうだ。
重たい身体を動かして、品出しを続ける。
ダンボールから取り出した本を並べていた時
ふっ…と視界が暗くなり、
「あっ、すみません。今退きますね」
お客さんだと思い、立ち去ろうとした。
ここに置いてある本を取りたいのだと思って。
その瞬間
「凛。」
「!!」
聞き慣れた声。
「は、る……?」
目の前には、いつものように丸眼鏡と大きめマフラーが。
「アンタ、何して…」
「仕事終わって帰ってきた。」
「(仕事………)」
アンタの仕事って、俳優?
聞きたい。今すぐに。
だけど、今それを言ってしまえば長くなる気がする……
それは家で聞くべきだと、混乱する脳内で瞬時にそう考えた。
「………そう。じゃあ早く家に帰って寝たほうがいいんじゃない?朝、早かったんでしょ」
「うん。そのつもり。
だから寝る前に一度、凛の顔見たくて。」
「っ、」
……嗚呼、ダメだ。
キュンとするな、私。