次々と教室を出て行くクラスメイト。最終的に俺1人が残った。
……静かだな。
時計の秒針の音。廊下の方から聞こえる遠い話し声。まだ部活が始まっていないらしく、外からは何も聞こえない。
この静けさに安心するなんて俺らしくもない。
「あ、いた」
ぽつんと水滴が垂れるほど小さな声だったとしても、静寂の中なら逃さない。
声に誘われるように振り向くと、たった今、教室に入って来たしのと目が合った。
「しの……。珍しい。どしたの?」
「万桜くんに話があって……光石先輩から、教室にいるって聞いて来た」
俺に話……もっと珍しい。
俺としのの関係は、俺が一方的に構って成り立っているようなもの。寂しいことに、しのが俺を必要とすることはない。
「話ってなに?」
「万桜くん、1番前の席なんだ」
しのは質問に答えず、俺の隣の席の椅子を引いて、そこに座った。
2学期に入ってすぐにした席替えで、俺は見事、教卓の前の席を引き当てた。
あの時の大変喜ばしそうな石橋の顔と言ったら、一生忘れねぇ。
……って、そんなのはどうでも良くて。