「っ、は…木の幹がっ…はぁ、っ、根強く生きるのは尊敬するけど…はっ…」



私の目も良かったみたい。

だから思ったより遠かった。


目が良すぎて近くで見てる感覚になっちゃった。

いや距離感がバグってたのかも…。



「着いた…」



息を整え、顔を上げる。


木に結われている髪紐は私のとそっくり。

同じと言っても過言ではない。


けど、違う…。

“ここじゃない”。


…ん? 何でここじゃないって思ったんだろう。


変なの。



それで……ここに髪紐があって、日が射し込む場所も湖もルアのいる建物も…。

この条件が重なるのは…偶然かな…。


だとしたら、偶然にも程があるはず…。


けども、私には判明できない謎だ。


もしもの話としての可能性があるとすれば、ここは向こうとは違う所かもしれない。


この自然の違いと、容姿の違い。


彼は…ノアは、私の眼を見ても異端だ、気持ち悪いって心の底から言ってなかった。


だから、私は向こうよりこっちの方が合ってるのかもしれない。

私は少し慣れなきゃだけど、でも…こっちの方がよっぽど良い。



赤い髪紐の先には丘が…?


その事実を求めるために、自然と速歩になっていた。



けれど……その光景は私の想像を裏切った。



「ぇ…!!! な、何ここ……」



思わず小声になり、目を見開いた。


如何にも具合の悪そうな色をして、危険そうな気泡が沼から湧き上がってくる。


乾燥して地割れしている地面には足が何本もある虫たちが、彷徨っている。



「ひえぇー、気持ち悪いよぉ…」



情けない声で泣きべそをかく。


環境と悪臭は最悪…。


青ざめた顔で後退った私に、さっきまでの面影がないほどの美味しい空気が体を包み込んでくれる。


な、にが起きたの…?


森に戻った。


赤色の髪紐を越えると……。


さっきまであの森だったのに、後ろを振り返っても森は見当たらずこの気味の悪い地域が広がっているだけ。


どうなってるの…?


大きく一歩下がる。


すると、彼方遠くまで森が広がる。


見えない壁、がある…?


腕を伸ばすと、手首が消えた。


この髪紐を目印に、境界線を挟んで自然の違いに唖然とした。


この違い何!?!?


何でこんなに違うの…。


普通なら自然に植物たちは劣化していくはず…。

なのにこんなはっきり分かれてるなんて…。


やっぱりこっちは向こうと違って、上がり下がりが大きい。


私がここで暮らすとすれば、あれの忍耐力はつくだろうと思うけど……。 


今のところ暮らす可能性はない…。

誰にも出会えてないから。



…やばい、早くここから離れなきゃ。


胃がムカムカして気持ち悪い…。


その瞬間、腹部に違和感を感じた。


体の中心から沸き上がってくるものに耐えながら、髪紐から距離をとる。


髪紐が視界に入らないように木に背中を預けて、座り込んだ。


きっと、あの悪臭で気分が悪くなった。



「うっ…」



思い出すだけで、気持ち悪くなる。


吸って…吐いて…。


深呼吸を繰り返す。



段々落ち着いてきた。


あれは酷い臭いだ。

私には耐え難い。