「わ、私そのジュリって虎と一緒にいました…?」
「いた」
即答。
「その時の状況を詳しく教えてもらっても…?」
「いいが、俺は眠い。これを話したら出て行け。人間の匂いが煩わしい」
その発言から色々引っかかったが、耳に入った気掛かりなこと。
嗅覚が優れている、だと…?
「視力はどれくらいでしょうか」
「知らん。だかお前の顔の毛穴まで見える」
「ひえっ…」
とても泣きたい気持ちになった。
けど、ノアは完全に猫ってわけじゃないのかも…。
「もういいです…っ。早く話して下さい……」
人間の視野は180度なのに対し、ネコの視野は約200度で、人間より広い。
30~60mの先のものが人間にははっきり見えるが、猫にはぼやけて見える。
これに、ノアは当てはまらない。
私の顔のそれすら見えてるんだから、人間並には視力が良いはずだ。
人間の要素もあるんだろうな。
「俺は寝てた。そしたら俺の陣地に何者かが入ってきた。そこに行ったらジュリだとわかったが、そいつがお前を連れてきたんだ」
ジュリが、私を…?
あの後、私をここに連れてきてたなんて、何がしたかったのかな。
「そしたら、任せると言って置いていったんだよ」
ジュリ、説明が少ない…。
ん? 今言ったって言った?
ジュリ、喋るの…?
あの時はガルルって唸ってたのに…。
新しい情報が多すぎて、冷や汗が止まらない。
「これでいいか? 早くここから出て行け」
「はい…」
ベッドから降りて、分厚い出入り口の扉を押す。
うぅ、重たい…。
「ありがとうございました」
薄く開いた扉の隙間に体を滑り込ませ、扉が閉まる前に付け加えるように言った。
ガチャリと閉まった扉を背に、前方の左側に階段があるのが確認できた。
……何もかも理解できない。キャパオーバーだ。
私はきっと脳が小さいんだ。
ノアは何て言ってた?
まず何で猫耳と尻尾が付いてるの…?
虎が喋る?
意味分かんないよ…。
何で私、こんなことで手こずってるんだ…?
きっと混乱してるからだ。環境も変わってその変化がまだ馴染んでないんだ。
気持ち的に落胆しつつも気を取り直して、辺りを見渡す。
廊下まで殺風景なの…?
どれだけ温かみのないお家なのよ…。
そんな風に心の中で毒づきながら強がる。
そうでもしないと、この場を乗りきれない気がしたから。
壁に引っ掻かれた跡がやけに目立ち、妙な静けさが不安を煽る。
階段を降りる時の響く足音に不気味さを感じた。
自然と鳥肌がたつ。
恐怖心を抱きながら階段を下りると、どうやら二階建ての建物らしい。
部屋が所々にあるが、その部屋からも物音ひとつ聞こえない。
早く出よう。怖い…。
自然と速歩になり、進んだ先に大きな扉が見えた。
出口だ…!
駆け寄って扉に手を添えると、重く揺れた。
一気に力を込めてゆっくりと押し、外をちらりと覗くと木々で賑わっていた。
また森かぁ……と、がっくりと肩を下げた。
外に出てきょろきょろすると、この扉の傍に小さな出入り口を見つけた。
ペット用の出入り口みたいな幅だ。
ノアがここから出るのかな…?
流石にそれはないか。あんな風に人の姿をしていて、私より背丈も高かったと思うし。
じゃあ、誰が…?
うーんと唸る。