結局、笠原くんは帰ってこなかった。
笠原くんが出て行ったあと、ずっと玄関にいるわけにもいかず半ば放心状態で買ってきたものを棚や冷蔵庫に納め、当初の目的だったお昼ご飯を食べるのも忘れて片付けを再開した。あれは、私なりの現実逃避だったのかもしれない。余計なことを考えたくなくて、鬼のような集中力を発揮した片付けは午前中の苦戦が嘘のようにあっさり終わってしまった。
肉体的にも精神的にも限界だったのか、目が覚めると私はベットではなく床で寝ていて、関節という関節がバキバキに固まっていた。汗でベタベタになった体をシャワーで洗い流し、やることがなくなってしまった私はだだっ広いリビングに置かれた趣味の良いダイニングテーブルで朝食であるフレンチトーストを頬張っていた。隠し味に入れたハチミツがきいていて、とても美味しい。
「……」
ナイフとフォークでフレンチトーストを切り分け、口に運んで咀嚼する。
「…………」
そのうちに切るのが面倒になって、1/4にカットされたフレンチトーストをそのまま口に放り込む。
「………………」
最後のひと口を食べ終え、マグカップに注がれた牛乳を一気飲みする。
「ああもう!腹が立つ!」
だん!と勢いのまマグカップを机に叩きつけ(割れてはいないからそこは安心してほしい)、乱暴に食器をシンクに運んで水道の蛇口を思いっきり捻る。
皿に当たって飛び跳ねた水が服を濡らしたが、それどころじゃない。
「なにあの態度!私のことが気に入らないのは分かるけど、出ていく!?普通!」
誰もいないリビングには、私の怒りの愚痴だけが響く。聞いてくれる相手がいないのは分かっているけど、声に出さなければ私の怒りが収まらない。
「確かにね?気まずいのは分かるよ?クラスメイトといきなり兄妹になっただけじゃなく、いきなり1ヶ月も2人きりで過ごせとか言われて困惑する気持ちも分かるよ?だけどさ!」
思わず握りしめたスポンジから泡がボトボトと落ちるのも気にせず、そのままお皿を引っ掴んでごしごしと力任せにスポンジで擦る。お母さんがこの場にいれば注意の声が飛んでくるだろう。
「私も立場は一緒だっつーの!」
突然再婚を告げられ、いきなり兄妹ができて、その兄妹と2人きりで暮らさなければいけなくなったのは私も同じだ。だからこそ、少しでも仲良くなれるように努力していこうと決意していたのに、その努力すらさせてくれないなんて!
「……別に自分の考えを押し付けるとか、自分だけ被害者面するつもりは無いけどさぁ……いや、そもそも私が2人を送り出したんだから、恨まれて当然か」
元々、私は怒りが持続するタイプの人間ではないから、燃え盛っていた怒りの炎はあっという間に形を潜めてしまう。
私の怒りは、吐き出したため息と一緒に出ていってしまったようだ。その代わりにやってきたのは、自己嫌悪という名の反省タイム。
「……洗濯物しよう」
食器の泡を丁寧に流し、ペーパータオルで念入りに水気をとって食器棚へ戻す。
洗面所に置かれた洗濯機に1人分の洋服を突っ込んで、洗剤と柔軟剤を入れてスイッチオン。ゆっくりと回り始めた洗濯機を確認し、自分の部屋に戻った。
この広くて静かな、静かすぎるリビングに、1人でいたくなかった。
「……暇だなぁ」
引っ越しの件もあってバタバタしていたから、今のところ友達と遊びに行く予定もない。比較的早い時間にも関わらず既に気温が30℃を上回った外に理由無く出かける気にもなれず、私は大人しく机に向かって宿題をすべくノートを広げた。
なんとなく集中できなくて、1時間も経たないうちにノートを閉じたのは秘密だ。
笠原くんが出て行ったあと、ずっと玄関にいるわけにもいかず半ば放心状態で買ってきたものを棚や冷蔵庫に納め、当初の目的だったお昼ご飯を食べるのも忘れて片付けを再開した。あれは、私なりの現実逃避だったのかもしれない。余計なことを考えたくなくて、鬼のような集中力を発揮した片付けは午前中の苦戦が嘘のようにあっさり終わってしまった。
肉体的にも精神的にも限界だったのか、目が覚めると私はベットではなく床で寝ていて、関節という関節がバキバキに固まっていた。汗でベタベタになった体をシャワーで洗い流し、やることがなくなってしまった私はだだっ広いリビングに置かれた趣味の良いダイニングテーブルで朝食であるフレンチトーストを頬張っていた。隠し味に入れたハチミツがきいていて、とても美味しい。
「……」
ナイフとフォークでフレンチトーストを切り分け、口に運んで咀嚼する。
「…………」
そのうちに切るのが面倒になって、1/4にカットされたフレンチトーストをそのまま口に放り込む。
「………………」
最後のひと口を食べ終え、マグカップに注がれた牛乳を一気飲みする。
「ああもう!腹が立つ!」
だん!と勢いのまマグカップを机に叩きつけ(割れてはいないからそこは安心してほしい)、乱暴に食器をシンクに運んで水道の蛇口を思いっきり捻る。
皿に当たって飛び跳ねた水が服を濡らしたが、それどころじゃない。
「なにあの態度!私のことが気に入らないのは分かるけど、出ていく!?普通!」
誰もいないリビングには、私の怒りの愚痴だけが響く。聞いてくれる相手がいないのは分かっているけど、声に出さなければ私の怒りが収まらない。
「確かにね?気まずいのは分かるよ?クラスメイトといきなり兄妹になっただけじゃなく、いきなり1ヶ月も2人きりで過ごせとか言われて困惑する気持ちも分かるよ?だけどさ!」
思わず握りしめたスポンジから泡がボトボトと落ちるのも気にせず、そのままお皿を引っ掴んでごしごしと力任せにスポンジで擦る。お母さんがこの場にいれば注意の声が飛んでくるだろう。
「私も立場は一緒だっつーの!」
突然再婚を告げられ、いきなり兄妹ができて、その兄妹と2人きりで暮らさなければいけなくなったのは私も同じだ。だからこそ、少しでも仲良くなれるように努力していこうと決意していたのに、その努力すらさせてくれないなんて!
「……別に自分の考えを押し付けるとか、自分だけ被害者面するつもりは無いけどさぁ……いや、そもそも私が2人を送り出したんだから、恨まれて当然か」
元々、私は怒りが持続するタイプの人間ではないから、燃え盛っていた怒りの炎はあっという間に形を潜めてしまう。
私の怒りは、吐き出したため息と一緒に出ていってしまったようだ。その代わりにやってきたのは、自己嫌悪という名の反省タイム。
「……洗濯物しよう」
食器の泡を丁寧に流し、ペーパータオルで念入りに水気をとって食器棚へ戻す。
洗面所に置かれた洗濯機に1人分の洋服を突っ込んで、洗剤と柔軟剤を入れてスイッチオン。ゆっくりと回り始めた洗濯機を確認し、自分の部屋に戻った。
この広くて静かな、静かすぎるリビングに、1人でいたくなかった。
「……暇だなぁ」
引っ越しの件もあってバタバタしていたから、今のところ友達と遊びに行く予定もない。比較的早い時間にも関わらず既に気温が30℃を上回った外に理由無く出かける気にもなれず、私は大人しく机に向かって宿題をすべくノートを広げた。
なんとなく集中できなくて、1時間も経たないうちにノートを閉じたのは秘密だ。