“ピーンポーンパーンポーン”


正午を知らせる鐘の音を聞いて、はっとしてダンボールを解体していた手を止める。スマホの液晶画面には12:00と表示され、作業を開始してから既に2時間が経過していた。
何かを始めると、熱中して周りが見えなくなってしまうのが私の悪い癖だ。

「やっちゃった、お昼どうしよう……」

そうは言っても外は茹だるような暑さだ。蝉達がこれでもかと言うほど大きな声で鳴き、太陽がアスファルトの地面を焦げ付かせんばかりの勢いで照りつけている。

(……好きにしていいって言ってたし、キッチンにある物で適当に済ませよう)

ついさっきダンボールから発掘したばかりのエプロンを持って、階段を下りる。キッチンの場所を聞き忘れたけど、階段に1番近い扉を開けたら、丁度リビングキッチンに繋がっていたので結果オーライ。

「綺麗なキッチンだなぁ……」

白を基調としたキッチンは綺麗に片付けられていて、食器や調理器具も一通り揃っていた。この塵1つ無いキッチンで料理をするのは気が引けたけど、しっかり掃除すれば大丈夫だと自分に言い聞かせてエプロンを付ける。

「げっ……冷蔵庫、何も入ってない……」

業務用と勘違いしそうになるほど大きな冷蔵庫には、醤油など必要最低限の調味料が寂しげに冷やされているだけだった。
調味料の他に食べられそうな食材は見つからず、がっくりと肩を落とす。

「結局買いに行く羽目になるのか……」

せめて、比較的暑さがマシになる夕方に買い物に行きたかった。何が悲しくて1番日差しの強い時間に出掛けなければいけないのだ。

(でもお昼ごはんを食べないわけにはいかないし、夕飯の食材も買わないと……)

タイミングよく、私のお腹が小さく音を立てる。予定より苦戦している荷解きに、もうお腹は限界だ。

「たしか、ここに来るまでに大きめのスーパーがあったような……」

つい数時間前まで使用していた地図アプリを起動して周辺の情報を検索すると、ここから歩いて10分ほどの所にスーパーがあった。
この辺の地形を早く覚えるためにも、やはり買い物に行く以外の選択肢は無さそうだ。

1度部屋に戻ってエプロンを置き、財布をバックに入れて部屋を出る。
買う物は特に決めていない。とりあえず今日のお昼と夕飯だけどうにかできればいいし。

「ぅ……暑い」

外に出てみると、気温は私がこの家に来た時よりも更に上昇していた。アスファルトの熱が、じりじりと私の足を焼く。

(日焼け止め、塗り直した方が良かったかも……)

そうは言っても家の中に戻る気は無い。多分、ここで戻れば家から出られなくなるのがオチだ。自分の性格は自分がよく分かっている。

(いざ、出陣!)

心の中で掛け声をかけながら、熱の篭ったアスファルトに足を踏み出した。