何度も何度もそう言ったのに、結局、広田博は最後まで聞いてくれなかった。


「いい奴だな、あいつも、妹さんも」と、別の席に座って遠くから様子を見ていた三島志麻が言った。


「もちろん、お前も」


「私はそんなのじゃないよ」


と言って、アイスティーを飲んだ。本当にそんなのじゃない。


よく、「(とく)を積みなさい」とおじいちゃんが言っていた。


「徳を積むと、積んだ分、死んだときに返ってくるんだよ」


おじいちゃんは、徳を積んでいるのか、お人好し過ぎるくらいに、優しかった。


私が遊びに行くと、いつもおもちゃやお菓子を買ってくれたり、お小遣いをくれたりしてくれたし、困っていると聞けば、自分の家がどんなに苦しくても、お金を貸したり、料理を作って持って行ったりするような人だった。


そんな調子だから、悪い人に騙されれたり、裏切られたりすることも多かった。


それでも、「徳を積みなさい」と言い続けて、死んでいった。


おじいちゃんは今、死後の世界でどんな優雅な暮らしをしているんだろうか。


きっと、向こうでも相変わらず、お人好しを続けているのかもしれない。


そんなおじいちゃんを見てきた私も、結局同じようなことをしているんだから、血は争えないなと思った。