広田博はもちろん、私が宏子ちゃんのデート代を稼ぐため、バイトしていることは言わなかった。


でも、本当にそれでいいのか自問自答したらしい。知らないことが、宏子ちゃんのためになるのか、と。


父親がいない広田家にとって、広田博は父親の代わりのような存在だったのだ。


そこで、宏子ちゃんに正直に話すと、宏子ちゃんは直接私にお礼が言いたいと、ここまでついてきたらしい。


「和泉さん、私のために、本当にすみません!」


そう言ってまた兄妹共々、起立、礼をするものだから、何だか謝罪会見のように思えてきた。周りの視線も痛く、「それだけはもう、本当にやめて」と念を押した。


「全然いいんだよ。好きでやったことだし。それよりデート、楽しんできてね?」


と私は給料すべてが入った封筒を宏子ちゃんに渡した。中には手紙も入れてあったけど、広田博にしても、宏子ちゃんにしても、その場で封筒の中を確認するようなことはしなかった。


広田家のみんなはそういう気遣いができる。これはきっと広田博のお母さまの人柄なんだと思う。病気がちなのに、私が来るといつも起き上がって、あれこれ気を遣って、優しくしてくれた広田博のお母さま始め、広田家のみんなが私は大好きだった。


「和泉さん、私このお金、絶対いつか返します! 中学を卒業して就職するので!」


「いやいや、ホント大丈夫だから!」


「いえ、返します!」


「ホントいいんだって……」