工場のベルが鳴って、やっと三島志麻は本を閉じた。
「おはよう」
改めてそう言うと、三島志麻は「おお」と言って、軽く手を挙げた。
休憩室から出て、朝礼を済ませ、作業に取りかかる。
今日も同じ機械から出てくる同じ部品を、同じ手順で加工し、梱包する。
三島志麻の方を見ると、三島志麻も同じように車のフロントライトを光にかざして、点検している。
そんな三島志麻の真面目な表情を見ていると、私は迷いが出てきた。
このまま本当にやめてもいいのか、と。
工場長は「このままいてくれてもいんだよ」と言ってくれた。
でも、このままいると、何だか私はダメになるような気がした。
具体的にどうダメになるかはわからない。そんなこと、ダメになってないのだから、わからない。
ただ、うん、ダメになっちゃっていいじゃん。
そういう気持ちとそうじゃない気持ちが、相撲しているみたいな今の気持ち。