「奏くんが生まれたのもこの病院なのよ」


「僕が?」


「ええ、あの頃は奏くんのお父さんとお母さん仲が良くてね、奏くんが生まれた時は泣きながら喜んでたの」


「う、嘘だ」

私を握る手に力が入る


「本当のことよ。でも、奏くんが1歳になった頃お父さんが友達に裏切られ、借金を背負ってしまったらしいの」

そ、んな、、


「それから、悪いこと続きでね。奏くんのお父さんは事故で亡くなってしまい、残された里美さんは借金を背負うことになってしまった。それから、借金と子育てに終われた末に、薬に手を出してしまったの。1度、この病院にも来たのよ。あの時、私がもっと話を聞いてればと、今でも後悔してるわ。ごめんなさいね」

頭を下げる高橋さん


「高橋さん、顔を上げてください。僕、今は幸せなんです。自分の居場所を見つけたんです」

奏くんの言葉に、嬉しそうに涙を流す高橋さん


「2人が今も一緒で、幸せだって聞けただけで、私は嬉しいわ。里美さん、ずっと奏くんに謝りたいって言っていたのよ。でも、あんな目に合わせた自分には会いたくないだろうって、自分を許せないだろうって、そう言ってたわ」


「本当に自分勝手ですよ。僕を殺しかけて、謝らずに、僕に文句1つも言わせないまま死ぬなんて、、ずるい」


プルルルッ


「ちょっとごめんなさいね。もしもし?」

着信音が鳴り、席を離れて電話に出る高橋さん


「奏くん大丈夫?」


「うん、思っていたより平気」

電話を終えて戻ってくる


「ごめんなさい、患者さんの所に行かないと行けなくなっちゃった。また、いつでも来てちょうだいね」


「はい。今日はありがとうございました」

高橋さんはドアを開けると振り返り


「ひなちゃん、治ったみたいで、安心したわ。本当に良かった」


またね、そう言って部屋から出ていった